近畿一の大自然が広がる秘境の村「十津川村」の魅力

温泉学会副会長  大川 哲次

1.(十津川村とは)

熊野参詣道の風情と周りの美しい山々が眺められる「果無峠」

「日本で一番大きな村」をご存知であろうか。奈良県の最も南に位置する山深い秘境の村「十津川村」だ。電車はなく、交通手段

は車とバスのみ。アクセスは極めて悪いが、周りには大自然が広がり至るところに日本の原風景が今に残る。清らかな渓流をまたぐ吊り橋、心からほっこりできる源泉掛け流しの温泉、村を通る聖なる路・世界遺産の熊野古道、地元で採れる素材を使った美味しい食、そしてそこで暮らす人たちの厚い人情など魅力にあふれる村だ。

私は、大阪で弁護士となった昭和50年から県北部の奈良市で住んでいるが、毎年5回ほどはこの村の良さに惹かれて訪れる。

2.(私のおすすめの十津川村の6つの魅力)

十津川村は、たくさんの魅力にあふれているが、その中で私好みの6つを紹介する。

先ず第1は、3ヶ所の泉質の違う天然の温泉が湧く湯泉地温泉、十津川温泉、上湯温泉の「十津川温泉郷」。お湯の高い効能と美しい景観から「国民保養温泉地」にも指定され、日本の源泉掛け流し宣言第1号の温泉郷だ。最近は「心身再生の湯」として、心と体の健康づくりを目指す。最も古く560年余りの歴史を数える、奥吉野の山々に囲まれた十津川に沿って湧く山峡の湯「湯泉地温泉」は、私の特に好みの温泉である。その中の「やど湯の里」には、今から35年ほど前から年3~4回、合計130回以上は宿泊に訪れている。第2は、世界遺産「紀伊山地の霊場と参詣道」に含まれる「大峯奥駈(おくがけ)道(みち)」にある「玉置神社」。その道は、吉野と熊野の聖地を結び、約170kmにも及ぶ標高1200mから1900mの急峻な山々が連なる修験道だ。その道沿いにそびえる最高峰八経ヶ岳(標高1915m)は日本百名山の一つ。その修験道の10番目の行場が玉置神社である。かつてはたくさんの山伏姿の行者が往来した同神社は、玉置山頂上(標高1076m)近くに鎮座し、大自然と一体となった社からはおごそかなパワーを体験できる。玉置展望台からは大峰山系や十津川村の山々の絶景を見渡せる。第3は、世界遺産「熊

長さ297m、高さ54mのスリル満点の「谷瀬の吊り橋」

野参詣道小辺(こへ)路(ち)」にある「果(はて)無(なし)峠」。小辺路は、高野山から熊野本宮大社に至る全長約72kmの古道だ。高野山~大股~伯母子峠~三浦峠~果無峠~熊野本宮と続く道沿いには、宿舎跡や石畳などの遺跡や大きな森が手つかずのまま残り、古の熊野詣をした時代が偲ばれる。その熊野本宮への最後の峠が果無峠だ。その峠からは遠く野迫川方面の山々や下方には十津川の流れが見える。その道沿いにある西国33ヵ所観音霊場石仏に出会うと、自然と心が和む。第4は、十津川村を代表する観光スポットで、日本一の生活用鉄線吊り橋の「谷瀬の吊り橋」。上野地と谷瀬を結ぶ長さ297m、高さ54mの日本有数の長い吊り橋は、スリルが満点。周りは深い山々に囲まれ、眼下にはきれいな十津川が流れる美しい景観。十津川村を縦断するように渓谷に沿って十津川が流れ、十津川村には今でも60もの吊り橋と人力ロープウェー「野猿」が架かり、生活用として利用されている。第5は、十津川村の花である世界中の約120種類・1万本の石楠花(シャクナゲ)を集めた「21世紀の森・紀伊半島森林植物公園」。毎年4月上旬から5月下旬の花期には、深い森の中にピンク、白、藤色、赤紫などの花々が咲き誇る。それに加えて春には山桜が咲き、初夏は木々の新緑がまぶしく、秋は紅葉が美しい。他にも樹木見本園や、森林館があって、その広さは約200haに及ぶ。第6は、十津川村の中を走る「日本一長い路線バス」。全長167km、停留所は何と167ヵ所。近鉄大和八木駅とJR新宮駅間の主に深い山々の谷あいを走り、高速道路を使わないバス路線では日本一の走行距離を誇る。十津川村の自然豊かな景色をのんびり眺めながら、スローなバス旅行を楽しめる。

3.(最後に)

以上のように十津川村は、たくさんの魅力にあふれている。是非十津川温泉郷の温泉宿に一泊して、今に残る日本の原風景を存分に楽しんで欲しい。(写真・文:大川哲次)

著者プロフィール

大川 哲次
大川 哲次温泉学会副会長/弁護士
おおかわ てつじ

三重県尾鷲市生まれ。
弁護士(よつば法律事務所所長)
大阪弁護士会副会長(1998) 1988年より受刑者や非行少年に対する改善更生のための篤志面接委員活動を行い、長年の篤志面接委員の活動により2016年藍綬褒章受章。そのかたわら日本百名山全山登頂、日本の温泉1981入湯、海外103ヶ国訪問済み。記録更新中。日本ペンクラブ会員・日本旅のペンクラブ関西部代表理事・日本山岳会会員・大阪ユネスコ協会理事・島根県奥出雲町特別顧問・大阪奈良県人会理事など。


2020.2.6現在