初春の川湯温泉「仙人風呂」と熊野本宮大社への旅
温泉学会副会長 大川 哲次
1.(私のよく訪れる和歌山県本宮町)
私は、三重県尾鷲市出身で大阪に法律事務所を構える弁護士である。既に35年以上にわたって、故郷への恩返しの意味で、毎年偶数月の年6回尾鷲市役所で市民のための法律相談会を行っている。その出張の際によく訪れるのが、和歌山県本宮町にある熊野本宮大社とその周辺の温泉である。2018年は、2月26日の相談会直前の24日、25日の両日、本宮町の川湯温泉と十津川村の湯泉地温泉にそれぞれ宿泊し、その年に創建2050年を迎えた同大社を訪ねた。冬の寒い時期に川湯温泉を宿泊先に選んだのは、同温泉の冬の風物詩として人気の仙人風呂に入るためだ。
2.(川湯温泉の仙人風呂に入浴)
同温泉街は、熊野川の支流大塔川左岸にあり、川原を掘れば至る所から温泉が湧くユニークな温泉地。川の水量が減る毎年冬の12月から2月の3ヶ月に、川の一部をせき止めて作るのが「仙人風呂」。川底から湧く73℃の源泉(アルカリ性単純温泉)に大塔川の清流を引き入れて40℃前後に調整した野趣あふれる露天風呂である。その名の由来は、同温泉がその昔「仙人」のお告げにより発見されたという言い伝えと千人も入れるほどの大きさがあることから。実際の大きさも横幅約40m、奥行き約15m、深さ約60cmの巨大なもの。周りはよしず張りの囲いだけで開放感一杯。休日の昼間にはたくさんの入浴客で賑わうが、夜間や早朝は星空を見上げながら大自然と一体となって静かに入浴を楽しむことができる。私が入浴した土曜晩は、丁度「湯けむり灯籠」が催される日で、幻想的な雰囲気の中で入浴できたのも幸運であった。
3.(世界遺産の熊野三山の一つ熊野本宮大社へ)
川湯温泉に泊まった翌日は、熊野三山の一つで古来から熊野詣の人たちが夢にまで見た聖地・熊野本宮大社を訪ねた。30年ほど前には、今は亡き母や家内らと一緒によく初詣に出掛けて行った神社である。同大社は、川湯温泉から車で10分少しの場所にある。和歌山県新宮市と奈良県五條市間の川沿いと山中を走る国道168号線に面して建つ。まず杉の木立が生い茂る静かな158段の長い石段を息を切らせながら上る。上り詰めると、神武天皇ゆかりのたくさんの八咫(やた)烏(がらす)の幟旗が目を引く。古式ゆかしい雰囲気を漂わせる現在の大社は、明治22年の熊野川大洪水で流出を免れた社殿をそのまま移築したもの。元は大斎原と呼ばれる熊野川の中洲にあったそうだ。大注連縄のかかる門をくぐると、檜皮葺きの3つの社殿と対峙する。私は、悠久な時を今も静かに刻む荘厳な社殿の前で、幾多もの苦難の末にこの地に辿り着いた旅人たちの信仰への熱い思いを感じずにはいられなかった。(文/写真:大川哲次)
著者プロフィール
- おおかわ てつじ
三重県尾鷲市生まれ。
弁護士(よつば法律事務所所長)
大阪弁護士会副会長(1998) 1988年より受刑者や非行少年に対する改善更生のための篤志面接委員活動を行い、長年の篤志面接委員の活動により2016年藍綬褒章受章。そのかたわら日本百名山全山登頂、日本の温泉1981入湯、海外103ヶ国訪問済み。記録更新中。日本ペンクラブ会員・日本旅のペンクラブ関西部代表理事・日本山岳会会員・大阪ユネスコ協会理事・島根県奥出雲町特別顧問・大阪奈良県人会理事など。
2020.2.6現在
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